フォール・アパート

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ギイ、という音がした。

枯木が軋んだか、あるいは《脊骨》が歪んだのかもしれない。 兎も角その瞬間は、長椅子にもたれかかるや否や、底が抜けたように視点が落ちていったのだ。

手に持っていたボールペン、飲み終えたコーヒーカップ、そして壁に掛かったアコースティックギターまでが、 視界の中央一点にみるみる凝縮されていき、ひとつの黒点となった。

ぱくぱく、ぱくぱくと、「発話せよ」と口筋に信号を送ったが、果たして空気が振動するには至らなかった。

私の身体はもう世界のどこにも繋がらなくなって、そして――ギイという音がして、扉が閉まった。

隙間から差し込んでいた光が無くなり、いわば透明な海月になった私は、色気を求めて、ただ深海をゆらゆら漂っている。