東南アジア旅行記 Day 8 クアラ・ルンプールでは、眉に唾を付けよ

@マレーシア・ペナン〜マレーシア・クアラルンプール


ペナン島の中心、ジョージ・タウンの最大とも言える特徴は、街の至る所で遭遇するストリート・アートであろう。

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ほとんどのイラストは、街の小道具をそのまま活かし、壁中と壁外の世界を結ぶように描かれている。したがって、ジョージ・タウンとこれらのアートに垣根は存在しない。次元を越境したひとつひとつのイラストから発せられた芸術のにおいは、街全体にまで行き渡り、ほの薄く漂っている。

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ジョージ・タウンのストリート・アートは、徒歩で巡るのがよい。都市芸術の世界にどっぷりと浸かり、想像力の栄養を補給することができる。私はギリギリまでペナンを堪能し尽くし、いよいよクアラ・ルンプール行きのバスに乗り込んだ。


クアラ・ルンプールまで、6時間。バスは、ダブル・デッカーで一人当たりの座席も広く、贅沢だった。しかし、寝ても寝ても、どうしても時が進まない。話し相手はーー乗客はみな、スマートフォンとにらめっこしている。私は、ツマブキのミニバスで味わった相乗り客との妙な一体感を思い出し、この整然と隔絶された空間が奇妙に思われた。

数回ほどバスが停車することがあったが、乗客の乗降場か、トイレのみの殺風景な休憩所で、やはり暇を持て余した。たまに車窓から外を見やっても舗装された道路が続くのみである。とうとう視界に考える種が無くなると、キャリア・プランなどの俗世の思考が図らずとも去来してきたが、旅先で過去や将来を思い悩むことなど野暮だと感じ、アイマスクをして、音楽を聴いた。『Put Your Records On』は、私の乱れた思考をよく満たしてくれた。

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クアラ・ルンプールに降り立ち、地図を見てチャイナ・タウンを探していると、バックパッカー風のイギリス人女性に声をかけられた。

「ねえ、どこへ行くの?」

「チャイナ・タウン」

「わお、近い。タクシーに折半で乗らない?」

私たちは、すぐにそれぞれタクシーを探し始めた。タクシーの料金をシェアできれば、随分と節約になるのは明らかなのだ。すると、キョロキョロしているのを見付けてか、インド系のタクシードライバーが彼女に声をかけた。

「タクシー?」

「そうよ。チャイナ・タウンのあたりまで。」

「20リンギット」

「うーん。こないだは10リンギットだったわ。」

彼女が値段交渉を始めたところで、私も相乗りをしていいものか尋ねるため、駆け寄って会話に割り込んだ。

「あのう」

「あ?お前、なに?こちとら商売中だ。部外者は邪魔するな。」

む?様子がおかしい。ドライバーが、にじり寄ってくる。

「あのう、そうじゃなくて」

私が事情を説明しようとすると、彼は深く息を吸い、ブーーッ!という大きな音を立てて私の顔面に唾を吹きかけた。彼女が目を見開いて驚いていると、ドライバーは歩み去っていった。

「何、あれ!?頭おかしいんじゃないの!?」

彼女は苛立ちを隠せないでいる。私は、心配させまいと泰然とした表情をしてみせる。しかし、顔がくさい。しばらくして別のタクシーを呼び止め、私たちは事無きを得ることができたが、彼女は私の代わりにいつまでもプンスカ怒っていた。そこまで怒ってくれると、こちらの怒りも収まるというものだ。顔がくさいのは収まらない。


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彼女と別れ、チェックインと洗顔を済ませたあと、ホテルの近場のマレーシア料理屋に入った。私が先ほどのトラウマを振り払うようにナシ・ゴレンを掻き込んでいると、「相席していいか?」とインド系の男性に尋ねられた。

――また、インド系か。しかし、他に席も無いようだったので、仕方なく着席を促した。

彼は座るや否や、「チャイニーズ?」と話しかけてきた。

ああ、めんどくさそうなのに引っかかってしまった、と思いながらも「ジャパニーズ」と返すと、彼は突然嬉しそうな顔をして、「アリガトウゴジャマス。オゲンキデスカ。」と、日本語をまくし立て始めた。海外の人はたまにこういうことをするが、どう対応すべきか未だによくわかっていない。

「どこで日本語を覚えたんですか?」

いちおう、聞いてみる。

「日本人の友だちに教えてもらったんだよね。コンニチハ、コンバンハ。サイトウタカシ。カトウサオリ。」

誰だ、そいつらは。

「ニッポンハ、サイコウノ、クニデス。」

「日本にいらっしゃったんですか?」

「えっと、行ったことはないんだよね。」

・・・。今のところ、クアラ・ルンプールは0点である。