東南アジア旅行記 Day 6 説教おじさん is everywhere

@タイ・ハジャイ〜マレーシア・ペナン


――海峡の短い橋を渡ると、ユートピアがあった。

ハジャイの旅行代理店「Cathey GuestHouse」でペナン行きのミニバスのチケットを買って、バスでの国境越えを試みた。ドライバーのタイ人は妻夫木聡に似た顔立ちだが、眉が下がっていてどこか締まりがない。私が「ペナン、プリーズ」と言うと、ツマブキは左口角を少しだけ吊り上げて、親指を立て、それを後ろに放り投げるようなジェスチャーをした。「乗れ」の合図だった。

4号線を南下して1時間、バスが倉庫らしきエリアに入った。BORDER、とある。マレーシア国境だ。ツマブキが、乗客を振り返って、右手の握りこぶしを左手のひらの上に置いた。「スタンプ」の意だろう。イミグレーションでは、入国審査官が鼻歌を歌いながらパスポートにスタンプを押していた。私のような後ろめたさのない旅行客にとっては、この緩さはありがたくもある。

いとも簡単に国境を越えることができたのだが、ミニバスに乗り込んでもなかなか発車しない。どうやら、乗客がひとり足りないようなのだ。30分ほど経ったところで、他の乗客も不安げな顔をし始めた。ツマブキもとうとうしびれを切らした。乗客を振り返って、腕立て伏せをするようなジェスチャーをした。「待て」のサインだ。ツマブキがエンジンを切ってイミグレーション・オフィスに向かったが、冷房が効かなくなったため鬼のように暑い。狂気の沙汰である。頭がクラクラしてきた。酸素も薄くなってきたような気がする。息が詰まる。次第に、乗客から舌打ちやため息が漏れ始めた。みな、明らかにイライラしていた。

しばらくして、ツマブキが例の乗客を連れて戻ってきた。しかし、軍服を着た男も余分に着いてきた。軍人が、ドアを開けた。少なくとも車内よりは幾分爽やかな風が吹き込み、私は天を仰いで深呼吸した。はあ、とにかく空気が入れ替わって良かった、と奇妙に幸せそうな顔をしている私たちを見て、軍人は顔をしかめながら、熱気に満ちた車内を見渡し、納得した様子で扉を閉めた。あの乗客が何か不審な行動をしていたのだろうか。しかし、知らぬが仏である。兎に角、バスはまた走り始め、私たちは正気を取り戻した。


イミグレーションでのトラブルと、渋滞も合わさって、4時間で着くするはずのところを6時間かかってようやく、東洋の真珠・ペナンに到着した。

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ペナン・ジョージタウンに降り立ってまず驚いたのは、思いの外観光地として栄えていることだ。ホステルも、レストランも、コンビニも、所狭しと軒を連ねている。しばらく歩いて見付けた「Muntri House」という中華系の宿を取り、晩食を求めて街へ出た。わずか徒歩2分の近場に、「RED GARDEN」という屋台村があった。一帯に、タイ・インド・中国・日本など、アジア各国の屋台が雑居している。何より、中国語でカバーされた『テネシー・ワルツ』が流れていることが気に入り、席に着くと、歩き回っている店員が「ドリンク?」と声をかけてきた。タイガー・ビールを注文すると、その場で会計を求められた。なるほど、ここではサーブされる度にお金を払うシステムらしい。乾杯、と空に放って、ゴクりと飲むと、やはり――美味い。視界が一気に明るくなった。思わず日本語で、「美味しい」と口にしていた。

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「学生さん?一緒に飲まない?」

声をかけてきたのは、後ろの席で飲んでいた中年男性だった。振り返ると、彼は現地人らしき3人組と晩酌をしている。さっき独り言を呟いたのが聞かれていたのかと思うと恥ずかしくて堪らなかったが、折角の機会なので混ぜて頂くことにした。

「ジャンジャン飲んじゃって」

松山と名乗るその陽気な男性は、仕事でペナンに来ているらしい。しばらくは旅先の話などで盛り上がっていたのだが、私が彼の息子と同い年だとわかると、酒のせいか、急に説教臭くなってしまった。彼流の仕事論にしばらくは付き合っていたが、現地人も彼の日本語での会話に取り残され、スマートフォンをいじり始めていた。彼が煙草に席を立った折が、チャンスだった。

「あの、そろそろ時間が・・・」

学生のひとり旅に時間制限など何一つ無いのだが、逃げるようにホテルに帰った。やはり、タダより高いものは無い。

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