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なぜ、素晴らしい音楽を聴くと涙が出るのか?

部屋で小曽根真の"We’re All Alone"を聴いていたら、気付いたら涙が出ていた。

私も音楽の演奏者の端くれとして、「どうすればライブで人が感動するのか?」ということを考える。そのため、音楽を聴いて涙が出たり鳥肌が立つと、思わず心の琴線と対話したくなる。もちろん、ひとしきり堪能したあとだが。

なぜ、素晴らしい音楽を聴くと涙が出るのか? ウォール・ストリート・ジャーナルに、「泣ける曲の解剖学」というタイトルの記事があった。

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記事によると、イギリスの心理学者、ジョン・スロボダが20年ほど前に簡単な実験を行っているらしい。

スロボダは、音楽好きを集めて、身体的な反応(涙または鳥肌など)を引き起こすフレーズをいくつか選び取ってもらった。すると、選ばれた20種類のうち、18種類のフレーズが『アポジャトゥーラ(倚音)*1』を含んでいることがわかった。

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アポジャトゥーラとは、旋律とぶつかる(非和声音である)ような装飾音のことだ。アポジャトゥーラは、聴き手に一定の緊張を引き起こす。そこから期待していたメロディに戻ると、緊張が解決され、心地よさを覚える。なので、アポジャトゥーラが連続して続くと、緊張と緩和が繰り返された結果、感情が文字通り揺さぶられ、いつしか涙になるという話だ。

さて、私は音楽における感動がすべてアポジャトゥーラに依っているとは思わない。これはたとえば、昨年、英科学誌ネイチャーで発表された論文で、「西洋音楽に慣れていない南米アマゾンの先住民族は、不協和音を聴いても不快に感じない」ことが明らかになったことからもわかる。なので、「緊張」が何によって引き起こされるかは個々人のコンテクストによるはずなのだ。

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より抽象的に、「緊張と緩和」が感動を引き起こすと解釈すれば、ある程度納得がいく。アポジャトゥーラでも、テンションノート*2でも、ポリリズム*3でも、ダイナミクス*4でも、手法はなんでも構わない。聴衆の緊張と緩和をうまくコントロールする音楽は、ブランコに乗る子どもを押すように、少しずつ、そして次第に大きく、感情を揺さぶるようだ。

*1:または、短前打音(装飾音符)。記譜上は短前打音であるが、バロック時代は完全に旋律の一部として演奏され、記譜よりも長い音価をとる。解決和音に含まれない非和声音であり、解決和音に寄りかかるという意味で倚音と呼ぶ。 会報より|モォツァルト広場

*2:非和声音のうち、和音の響きに緊張感を与え、かつ和音進行を阻害しない音

*3:楽曲中、または演奏中に、複数の異なる拍子が同時に用いられている状態

*4:音の強弱の変化ないし対比による音楽表現